令和6年2月21日(水)葛飾区歯科医師会地域医療講演会に出席してきました。|葛飾区お花茶屋の歯科・インプラント|コージ歯科

令和6年2月21日(水)葛飾区歯科医師会地域医療講演会に出席してきました。
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 MRONJとは、お薬の副作用からはじまる、顎の骨が壊死する病気で、日本語では「薬剤関連顎骨壊死」といいます。 Medication-Related Osteonecrosis of the Jaw”という病名から、”MRONJ”と呼ばれています。

ARAの投与を受けている患者は、薬剤関連因子や局所因子、全身因子、遺伝的要因が加わるとMRONJの発症リスクが高くなることが報告されている。

薬剤関連因子では、BP製剤では高用量が低用量より発症頻度が高く、Dmab製剤についても同様の傾向が確認されている。また、累積投与量についても高用量と低用量いずれにおいても長期投与に伴いMRONJの発生リスクは増加する。

局所因子では、多くの臨床および基礎的研究において細菌感染とMRONJ発症との因果関係が報告されている。このため、口腔衛生状態の不良や歯周病、根尖病変、顎骨骨髄炎、インプラント周囲炎などの顎骨に発症する感染性疾患は、MRONJの明確なリスク因子であるといえる。一方、抜歯をはじめとする侵襲的歯科治療は、従来からMRONJ発症の最大のイベントとして注視されてきた。しかし抜歯の適応となる重度の歯周病や根尖病変などの歯科疾患の多くは、すでに顎骨に細菌感染を伴っていることが多く、最近では抜歯だけがMRONJ発症の主たる要因ではないといわれている。

非感染性の局所要因として、不適合な義歯や歯周組織を損傷する過大な咬合力、下顎隆起、口蓋隆起、顎舌骨筋線の隆起の存在がある。口腔の特殊性として、口腔粘膜は薄く、外傷などにより容易に骨露出をきたすことが挙げられる。解剖学的要因として、下顎が上顎よりも発症頻度が高いことが挙げられる。

全身因子として、糖尿病や自己免疫疾患、人工透析中の患者は、疾患のコントロール状態や投与薬剤、感染に対する抵抗性の低下などにより、MRONJの発症リスクが増加する。

多くの基礎研究や臨床報告の結果から、MRONJの進展経路については大きく2つの視点でとらえる必要があると考えられる。
1つは、ARAが口腔内の感染病変の病態を修飾して骨髄炎を誘発する、すなわち感染病巣内でARAが引き金となってMRONJを生じるものである。
2つめは、感染を伴わずARA自体が無菌性・虚血性の顎骨壊死を引き起こすものである。

投与中の歯科治療
1)低用量ARA
抜歯を行う際の休薬がMRONJ発症の予防に有効であるとする十分なエビデンスが現時点では得られていない。
低用量ARAでは、医師と歯科医師の間で歯科治療の必要性を共有しつつ、休薬を前提としない侵襲的歯科治療を含む全ての治療の継続が望まれる。ARA投与中の抜歯後には治癒が遷延する場合があるため、上皮化が十分完了したことを確認すべきである。
抜歯以外の侵襲的歯科治療については、十分なエビデンスの蓄積がなく不明な点が多いものの、歯科インプラント埋入手術については近年多数の報告がある。ARA投与中の歯科インプラント埋入手術について、PP2016ではMRONJ発症のリスク因子とされ、どちらかといえば否定的であった。しかし近年、歯科インプラント埋入手術はリスク因子に寄与しないとする報告や、BP製剤投与中であってもオッセオインテグレーションは得られ、インプラント喪失のリスクは少なかったとの報告がある。これらの知見から、現時点では低用量ARA投与中の患者にインプラント埋入手術を行ってはならないとする根拠はない。

2) 高用量ARA
がんの骨転移などで高用量ARAを投与中の患者は、慎重に抜歯の適否を判断し、まずは他に回避できる治療法があるか検討する必要がある。
しかし近年、がん骨転移の治療を受けている患者の抜歯がMRONJ発症のリスク因子であるとする一方で、根尖病変、重度歯周病、顎骨骨髄炎など顎骨に明らかな感染源が存在する場合は、それ自体がMRONJ発症リスクを引き上げているため抜歯を前向きに検討すべきであるという報告がある。
歯科インプラント埋入手術については、他の代替治療が存在することから高用量ARA 投与中の患者には行うべきではない。

3. 投与中の周術期管理
ARA投与中の患者に対しては、医師と歯科医師が適切に連携を図り、歯科治療を継続することが重要である。
前立腺がんの骨転移患者253例の患者に対する前向き研究で、ゾレドロン酸投与中に3か月毎の歯科的介入を行った群と比較して、行わなかった群ではBRONJ の発症リスクは2.59 倍高い結果であった報告している。口腔管理を中心とした継続的な歯科治療は、良好な口腔衛生状態を維持することができMRONJ発症予防に重要である。
MRONJ 発症予防に特化した抗菌薬の使用については、現在まで基準となる報告はみられず、抗菌薬の種類、投与方法、投与期間についての明確な指標はない。

 

1.BP製剤
<高用量>
【商品名:ゾメタ点滴静注、ゾレドロン酸点滴静注、パミドロン酸二Na点滴静注用】
日本における調査では、高用量で投与された患者の1.6~32.1%にBRONJが発症している。
また、2016年~2020年に呉市で行われた調査では、高用量BRONJの1年間の発症率は、10万人あたり1,609.2人と報告されている。

<低用量>
【商品名:リクラスト点滴静注液、フォサマック錠、ボナロン(点滴静注・錠・ゼリー)、アレンドロン酸(点滴静注・錠)、ボンビバ(静注・錠)、ボノテオ錠、リカルボン錠、ミノドロン酸錠、アクトネル錠、ベネット錠、リセドロン酸Na 錠、ダイドロネル錠】
低用量投与は各経口薬とゾレドロン酸やイバンドロン酸などの注射薬で骨粗鬆症に用いる場合が大部分であるが、癌治療関連骨減少症(cancer treatment induced bone loss;CTIBL)に対し、骨粗鬆症の診断後にBP製剤が使用される場合も該当する。
日本のレセプトデータを基に行われた調査ではARA を投与された骨粗鬆症患者のMRONJの発症率は22.9/10万人年と報告されている。
日本の人口の1/20を占める兵庫県で行われた2018年から2020年の3 年間のMRONJ 調査では、約1,000例のMRONJ が報告された。MRONJの53.9%が低用量ARAによるものであり、そのうち85.5%がBRONJ、14.5%がDRONJであることが報告されている。
日本口腔外科学会の疾患調査での同期間中の日本全体のMRONJの報告数が約2万例であったことから、兵庫県での調査が日本の現状を反映しているものと考えると、わが国では低用量でのBRONJの新規発症が年間約2,500例はあると推算される。
また、呉市の調査では、ARA未使用の患者におけるONJの一年間の発症率は10万人あたり5.1人であったのに対し、低用量BP使用患者では10万人あたり135.5人であることが報告されている。

2.Dmab製剤
<高用量>
【商品名:ランマーク皮下注】
高用量での投与には、多発性骨髄腫による骨病変、固形癌骨転移による骨病変および骨巨細胞腫への使用が該当する。いくつかの臨床試験やメタアナリシスによると、Dmab製剤を投与されたがん患者において1.7~1.8%にDRONJが発症すると報告されている。観察研究ではDmab製剤を投与されたがん患者の5.7~33.3%でMRONJの発症が報告されている。日本では、年発症率は10万人あたり3,084.8人との報告がある。

<低用量>
【商品名:プラリア皮下注】
低用量での投与には、骨粗鬆症への使用あるいは関節リウマチに伴う骨びらんの進行抑制を目的とした使用が該当する。ECTSでは、骨粗鬆症患者におけるDRONJの発症率はBRONJと同様にがん患者よりかなり低く、危険因子もBP製剤と同一であるとの見解を示している。
日本では、第Ⅲ相臨床試験で0.2%、コホート研究では0.133%のDRONJの発症が報告されており、呉市の調査では、1年間の発症率は10万人あたり124.7人と報告されている。関節リウマチに対して、日本では60mgを6か月間隔で投与する用法の他に、効果不十分の場合は60mgを3か月間隔で投与する用法も承認されている。

日時 : 令和6年2月21日(水)午後7時30分
場所 : 葛飾区歯科医師会館 
演題 : 「高齢者・有病者の薬物療法と歯科治療時の注意点、
薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)に関するポジションペーパー改定について」
講師 : 東京歯科大学 オーラルメディシン・病院歯科学講座
教授 松浦 信幸先生

抄録

加速を続ける我が国の超高齢社会において、高血圧症、狭心症、糖尿病などの一般的な基礎疾患のみならず、脳卒中や慢性腎臓病などといった、歯科治療において特別な配慮を必要とする有病高齢患者が増えており、同時に多剤服用している患者も少なくありません。このような予備力の低い患者では、歯科治療をきっかけに持病が悪化したり、または生命予後にまで影響を与えるような偶発症を発症したりする可能性もあります。本講演では、歯科医師が知っておくべき有病高齢者の代表的な基礎疾患の基本知識と内服薬、歯科治療における注意点について解説します。
また、薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)に関するポジションペーパーが7年ぶりに改定されましたので、主な変更点について解説いたします。

略歴

1991年 東京農業大学 農学部醸造学科(現:応用生物科学部醸造科学科) 卒業
1991年 豪州 University of Tasmania 農学部大学院 留学
1992年 米国 University of California, Berkeley校 留学
2000年 東京歯科大学 卒業
2004年 東京歯科大学 大学院歯学研究科(歯科麻酔学専攻) 修了
2004年 東京大学 医学部付属病院麻酔科 医員
2005年 東京歯科大学 歯科麻酔学講座 助手(2007年 職名変更:助教)
2011年 東京歯科大学 歯科麻酔学講座 講師
2016年 東京歯科大学 歯科麻酔学講座 准教授
2020年 東京歯科大学 歯科麻酔学講座 教授
2020年 東京歯科大学 オーラルメディシン・病院歯科学講座 教授(配置換え)